真空管入りのコンプレッサー、electro-harmonix BLACK FINGER。2010年の秋に入手し、2014年5月に売却。手放しといて言うのもなんですが、ギター用ペダルとしてはベストな音のコンプだと思います。しかし入手して以来、私は一度もBLACK FINGERを宅録に使いませんでした。これを使わねばならない場面が生じなかったのです。
BLACK FINGERの良い点は「いかにもコンプかけてまーす」みたいな音にせずに、コンプを掛けた効果が得られる事だと思うのです。コンプを掛けてるとバレずに、音をまとめてくれる。それと、音が若干派手になる。
しかし、とくに宅録の場合は、コンプ感なしで音をまとめたいならDAW内で事後処理するのでもOKだから、BLACK FINGERの有難味は薄い。宅録でコンパクト・エフェクターのコンプを用いる場面とは、「いかにもコンプ」な音が欲しい時に限られる。だから私にとって必要なのは「いかにもコンプ」な音の方の機種で、BLACK FINGERは無用の長物だったのでした。
BLACK FINGERはマイクプリにインサートして使うのでも良かったかも知れない。しかし2014年5月にdbx 160XTを入手したため、そっち方面での必要性も消えた。というかBLACK FINGERと160XTとは中古価格が概ね同じだから、BLACK FINGERを売れば160が買える。だったらそうしましょうかという事情があったのでもあります。
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■BLACK FINGERを掛けてるギターはYAMAHA SJ-500、PUポジションはR。
■アンプはYAMAHA YTA-25、収音マイクはAUDIX D1。
■マイクプリはFocusrite Twin Trak。EQ/コンプはOff。
■BLACK FINGERの設定は;
Pre-Gain | SQSH or NORM | LAMP or LED |
3時半 | SQSH | LAMP |
Compress | Post-Gain | |
3時 | 11時 |
■DAW上でテープエコー・シミュレータを掛けてます。設定は;
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■L ch.のフォーク・ギターはYAMAHA LL-6J。
■収音マイクはOktava MK-319。ロー・カットをON。
■マイクプリはFocusrite Twin Trak。入力インピーダンスは12時。EQ/コンプはOff。
■DAW上でEQしてあります。設定は;
■途中のブリッジ(というか、コードがD Major or D minorの部分)は別設定の、足の長いリバーブにしてあります。
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■ベースはSquier MMB-35。
■右手をPUフェンスに置いてネック側をJJ奏法っぽい2フィンガー。
■ART DUAL MPのHi-Z IN → Focusrite Twin TrakのInsert In → DAWという接続順。
■ART DUAL MPの設定は;
INPUT | OUTPUT |
3時 | 12時 |
■Focusrite Twin Trakの内蔵コンプを使用。設定は;
Comp | Release | Gain |
2時 | ゼロ | 9時 |
Slow Att | Hard Ratio | Hard Knee |
ON | Off | ON |
■PSP Vintage Warmerも掛けてます。設定は;
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■ドラムはKORG ER-1。
■Focusrite Twin TrakのINST INからDAWへ卓直。
■DAW上でEQしてあります。設定は;
■途中のブリッジ(というかな部分)にはgrungelizerを掛けてます。
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■2 Mix書き出し時のレベル上げに用いたのはPSP Vintage Warmer。設定は;
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■録音期間;
2014年5月12〜16日
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今回の作例はBLACK FINGERの音の記録だけでなく、最近入手したばかりのベース/Squier MMB-35と、パーツ交換したばかりのYAMAHA LL-6Jの試運転も兼ねてます。
BLACK FINGERの良い点は「いかにもコンプな音」の設定にせずともコンプを掛けた効果が得られる事。ですが今回は自分の好みを優先し、BLACK FINGERにしてはキツめの設定の、「いかにもコンプ」に近い音にしました。
BLACK FINGERにはSQSH/NORM切替スイッチというのが付いていて、これをSQSHにすると「いかにもコンプ」な音になる(と思う)。
コンプレッサーの用例として相応しい題材は、やはり小刻みなカッティングを多用する曲なのだろうけど、メロディを弾いた時の反応も記録しておきたい。その両方を1曲で済ませるため途中のブリッジ(というかなコードがD Major or D minor)の「いっぷくタイム」みたいのを設けたのだけど、これはちょっと唐突で流れが悪い、謎な挿入物になってしまった。まあこのテの作例は曲としての云々を問うべきでもない、機材デモ用の素材を並べただけの、曲に成り損なった断片集でしかないのだけど、今回のは自分的には気に入ってる面もあるので、いずれちゃんとした曲として作り直したいかも。
最初、今回の作例にフォーク・ギターを使うつもりはなくて、伴奏はオルガンにしようかと考えてた。ベース・パターンはJames Brown "Get Up Offa That Thing"のを応用するつもりだった。この時点で何となく想定してた完成予想図は、結果的に出来上がったものとはかなり違ってた(はずなんだけど)、それがどんなんだったか、今となっては全く思い出せません。ほんの2週間くらい前の事なんですけどね。
"Get Up Offa..."は1970年代中期の曲で、ベースはブーツィー(かどうか私は知らないけど)、音色もフレーズ形もMMB-35のお手本にうってつけだと思う。しかし結果はまるで別もので、しかし曲テンポがBPM=127なのが"Get Up Offa..."に倣おうとした唯一の名残です。ちょっと前になんかヌルいテンポのダッサいのを作っちゃったから、(自分自身の口直しのために)速めのをやっておきたいという気持ちもありましたし。
YAMAHA LL-6Jは最近パーツを3カ所交換して、更に今後はコンパウンド弦を張る予定だから、現状のブロンズ弦の音も一応記録しておいた方が良い。それに自分、オルガン・パートを作るよりかはギターを弾いてしまった方が作業が楽なので、じゃあ今回のにフォーク・ギターを混ぜよう。と決めたところから、何かいろいろ脱線し始めたかも知れない。それで結果的にはファンクとブルーグラスのへんなあいのこみたいのが出来上がり、しかもミックス段階で(エレキの拙さを補うため)エコーを足したので、ロカビリー臭も加わってしまった。
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BPM=127について;
今回の作例の曲テンポはBPM=127です。Little Eva "The Locomotion"はBPM=127前後で、欧米人にとってこれは普通に歩く時のテンポ。日本人にとってはやや早足。そういう速さです。
いや、欧米といっても私が実地で知ってるのはロシアとニュー・ヨークだけなのだけど、どちらの人々も日本人の平均よりもずっと早足でした。N.Y.がそうなのは、多分そうなんだろうなと思ってもらえ易そうだけどロシアは?ロシア人なんて熊みたいにのっそり歩くもんだと思われるかもだけど、実際は速いですよ。それにエスカレーターとかも、N.Y.やロシア(だけでなく多分欧米全般)のエスカレーターは、日本のよりずっと速く動いてる。慣れないうちは乗り降りするのがちょっと怖いくらいだ。街中を走る自動車もばかに飛ばすし、だから日本人の感覚からすると社会全体のテンポが速いと感じる。でも人口比だと日本人の方が少数派だから、「日本がゆっくりなのだ」と見なすべきかも知れない。
ともかく日本人の動作は西欧と比べると全般的に遅めで、歩くテンポの標準はBPM=120くらいのように思われる。だからもしかすると日本人の洋楽受容の根底にはレシオ127:120分の根本的な勘違いが含まれてるのではなかろうかという気もするけど、でもまあBPM=120〜127はどの国でも概ね歩く時のテンポである(という事にして)、BPM=127の曲の基礎性格(とでもいうようなもの)は何かを考えてみると、
・快調で気分良く、
・開放的で、
・なおかつリラックスした感じ。
ではないかと思う。ただしそれはBPM=127を4ビートあるいは8ビートで用いる場合のみであって、これを16ビートに刻むと、何故かとても速く感じられて、少なくとも演奏する側の私にとっては非常に弾きづらい。BPM=127の1拍(4分音符)の長さは約0.47秒。16分音符一つの長さはその1/4ですから、約0.12秒です。
・人間の知覚能力の限界が約0.05秒(らしい。可聴下限20Hzの1周期が0.05秒)。
・陸上競技のフライング判定基準が0.1秒(運動能力の限界が一応これくらい)。
となると0.12秒というのはかなり速そうに思われるけど、ギターを弾く動作とは、
・ピック弾きならアップダウン
・指弾きなら2本で交互
で弾くのが普通だから、実際の動作は8分音符周期、つまり0.24秒で動いてる。全身運動(陸上競技のフライング)の上限が0.1秒とされるから、指先だけの細かな動きの0.2秒台はぜんぜん普通の動作だと申せましょう。実際、BPM=127で3フィンガー・アルペジオ(のような定型パターン)を弾いたり、あるいはスケールライクな単音フレーズを弾き流したりするのは難しくない、わりと誰でもする事です。ですが私が今回BLACK FINGERを掛けたエレキの音で弾きたかったのは、
・カントリー・リックの一種のアルペジオ崩しをフレーズっぽく聴かせる技、
・それの応用で全曲を埋め尽くす事、
・しかもBPM=127のリラックスした感じを保ったままで。
というもので、しかしそれがとても難しかったのですね。まあそもそも自分にはカントリー・リックの仕込みが足りてないので、どだい無理があるのだ。この点も含めて、今回のはもう一度ちゃんとやり直したいと思うのであります。
BPM=127で16分音符を几帳面に弾くとセセコマしくなるというか、「一生懸命弾いてる」感じになって気分は台無し。快調にコロコロ転がる感じのフレーズが次から次へと湧き出てくる、という印象の演奏をしてみたいものである。
しかもそれを、YAMAHA SJ-500のリアPUで。
SJ-500はテレキャスターのフェイクというか進化形みたいなもの(70年代当時の人が考えた進化形)で、ともかく大まかにはテレキャスの仲間に分類されるギターだから、これを出来るだけテレキャスらしく鳴らせないかと、このところいろいろ試してるのです。SJ-500にテレキャスの代役は無理ととなったら、フェイクではない本物テレキャスを買う事になるかもで、それは出来れば避けたい。私としてはSJにガンバってもらいたいのである。
SJのフロントPUは本来はハンバッカーだし、私のはテスコだし、だから問題はリアPUの音についてのみである。STAX時代のスティーブ・クロッパー氏はリアPUしか使ってなかったらしいから、リアPUさえテレキャスぽかったら私は充分満足である。そしてSJ-500のリアPUに「テレキャスらしさ」は、現状でもそれなりにあるとは思う。それなりにある、というより、テレキャスのある一面だけを強調したような音。強くコード弾きした時にギャーンと鳴る、その耳の痛さだけはテレっぽい。本物のテレキャスはそういう鋭角な音だけでなく「いまいちエレキに成りきってない妙な生ギターっぽさ」も併せ持ってる(と思う)のだけど、SJにその属性は皆無である。この点を何らかの工夫で補えたら、本物のテレキャスを買う必要はなくなる次第である。取りあえず思い付けるのは、
・フラット弦を張ってみる
・PUを交換する
・ブリッジを改造する
等々ですけど、そういうハード面でのあれこれよりも「何をどう弾くか」の方が重要かもで、それでカントリー・リックの類を弾きこなしたいと思ってる今日この頃なわけです。
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KORG ER-1について;
今回用いたKORG ER-1のプリセット・パターンは、
A59; In the Park
A61; Happy House
2つとも"House"カテゴリのパターン。それを概ねそのまま、部分的にはパーツ抜きなどをして使用。プリセットのBPMは134と140だけど、それを127に落としてます。
ブリッジ(というかな)部分にはgrungelizerを掛け、その前後と落差を付けてるのは前回の作例と同じ段取りですが、ノイズ・ジェネレータはオフって、SP盤の音というより、いわゆるラジオ・ボイスに近い設定にしてます。
ラジオ・ボイスを作る時はEQ+歪みを使うのが一般的かもだけど、今回のはべつにラジオ・ボイスにしたかったのでもなく、ブリッジ(というかな)部分の前後との差が付きさえすれば何でも良くて、前回の流れから今回もgrungelizerを用いたまでの事です。ちなみに、別の記事にも書いた事だけどノイズとは心地良いものだから、grungelizerのノイズ機能もなるたけ使いたいのだけど、いかんせんこのソフトは色物っぽすぎる。それと電源ハムは音程を持ってるので、私的にはNG。スタインバーグ"マグネット"のようなテープレコーダーの音を擬態するソフトで、ヒス・ノイズが出るのがあったら良いのにと思う。
テープレコーダー風にするソフトがあるのだから、ラジオ・ボイス専用のソフトがあっても良さそうなものだけど(いや、既にあるのかも知れませんが)。ラジオ・ボイスの特徴は帯域が狭いというだけでなく、受信機側のアンプで生じる歪み、ちっこいスピーカーが割れる音、そしてラジオ特有の(電波由来の)ノイズ、それらが混ざってこそのもので、それらを一つのソフトでまかなえたら便利だと思うわけです。DAW用プラグインエフェクトでも、古い機材をそっくり再現したタイプの製品の中には、その機器から生じるノイズまで再現してるのもあるらしい。そういうソフトが作られるのは良い風潮だと思いますけど、私が好きなのはテープのヒス・ノイズと「壊れたラジオみたいな音」で、アンプ回路のノイズはツボから外れてる。ギター・アンプのノイズは極力なくしたいと思ってる。まあなんか、勝手なものですよね。